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オーラル・ヒストリーとは何か

オーラル・ヒストリーとは、語り手が個々の記憶に基づいて口述した歴史です。広い意味では、それを口述史料として記録・保存し、研究することも指しています。記憶と語りに基づくオーラル・ヒストリーは、従来の歴史研究において、文字史料よりも低い価値を与えられてきました。しかし第二次世界大戦後、歴史の中心を占める人々の考えを代表しがちな文字史料に対して、口述史料を通して、歴史の多様な当事者の声にも耳を傾けていこうという動きが生じました。技術の進展に伴い口述史料の実証的な価値も高まる中で、人類学や社会学、歴史学、政治学の分野で口述史料の学術的な価値が認められるようになりました。歴史学の一翼を担う美術史分野においても、国内外においてオーラル・ヒストリーを用いた研究が盛んになりつつあります。

文字史料を補完する以上の重要な役割がオーラル・ヒストリーにはあります。同じ出来事に対しても、立場や関わり方によって人々の受け止め方は大きく異なります。オーラル・ヒストリーは、人々が感じたことの中にも、実際に起こったことを明らかにする手がかりがあると考えます。また、歴史的な出来事とは、様々な可能性の中で選び取られた結果の一つにすぎず、その背後には、多様な可能性が存在した場合もあります。オーラル・ヒストリーは、当事者の語りを通して、多様な考えが絡み合う歴史の厚みを明らかにするものです。オーラル・ヒストリーは、通常のインタヴューや取材と異なり、特定の目的のために行われるものではなく、また短期的な要請にすぐに応えるものでもありません。それは、歴史の出来事に関する様々な事実や考えを広く集めていく長期的なプロジェクトです。オーラル・ヒストリーの価値は、歴史を研究しようとする者がそれぞれの関心に基づいて能動的に活用して初めて高まっていくものなのです。